なるようになるかも

力は多くの場合、その人の思いを超えない。

iOS9広告ブロック騒動雑感

煎じすぎて味がしないかもですが、開発者視点の話ってあんま見ないので。

Appleは日本の広告業界なんて見ていない

「悪い日本の広告が駆逐されるのは良いことだ」「これをいい機会に広告産業を見直すべきだ」的な論があるのだけれど、Appleは特に日本の広告業界について不満があるわけでもなんでもなく、ウェブサイトのネイティブアプリ化、あわよくば自社のiAdを盛り上げたいという意図しかないのでは?と考えています。

ウェブサイトのネイティブシフトについては、iOS8からSafariのログイン情報を使ってシームレスにアプリにログインする機能が追加されています。OSXではSafariでログインし、その認証情報をiCloudキーチェーンでiOSに連携、ネイティブアプリを使う、という囲い込みがAppleの考えているゴールと考えています。

情報を囲われるということは、広告産業にとって致命的です。リスティング広告ビッグデータ機械学習が輝いている分野の一つだと考えていますが、それを支えてきたのはオープンウェブの存在です。Appleがユーザーの行動情報を寡占すれば、それらの価値は大きく毀損し、同時にiAdの真価を発揮させていくのだと思います。たぶん。

こっから後はどうでもいい話です。

広告産業とアプリ開発

iPhoneアプリが流行っていた初期って、CoreMotionを使ったどうでもいいようなアプリにも100円で払える雰囲気があったと思うんですよ。連日ストアの上位を覗くのが楽しかったころです。

そういう時代には、アプリの売り上げで一発当てることも可能でした。その頃の人たちはもうコモディティ化したiPhoneには興味をなくして、ドローンでも飛ばして遊んでたりするんでしょうか。

ともあれ、そこへ広告産業が流入してきました。

アプリにお金を払う敷居ってやっぱり低くはないので、評判の良いアプリが一点集中的に売れる傾向にあったと思います。売れないアプリはさっぱり売れません。

ですので、売れないアプリのLite版を出して、広告収益に切り替えるところが増えていきました。

こうなると買い切り型のアプリはデメリットばかりが浮き彫りとなっていきました。iOSはバージョンアップで劇的にAPIが変わるので、それに追従する工数を捻出しなければならないのですが、既存のユーザーに負担を強いることはできないので、赤字覚悟で新バージョンに追従するか、買ってくれたユーザーを切り捨てるかの辛い二択になります。もはや市場には無料化したアプリが溢れているので新規開拓の望みも薄いのです。

この辺りで、「アプリを買う」という文化は廃れました。焼畑に広がるのは「OSをアップデートしたら起動しません。★1です」の怨嗟のレビューばかりです。

広告収益を上げるには、まずダウンロードされ、繰り返し起動されることが重要です。お小遣い稼ぎやアダルト系、2chまとめ系アプリのような、ウェブでも悪貨と言われる側が圧倒的に有利です。アプリのプロダクトデザインもユーザーゴールの実現よりアプリの消費期限の延命を、利便性よりもインプレッションを増やすための通知を送るよう、全てが改悪されていきます。追い打ちをかけるように、アプリ内課金型のソーシャルゲームがネイティブに流れてきました。

個人開発アプリの行方

もはや面白いアイデアを実現するアプリを作る開発者を応援することにジュース1本分のお金を払う価値は、出るか出ないかわからないSSSレアのために1万円払うことより低いわけです。

そういうわけで個人開発アプリのほとんどは、広告に頼っています。大きく当たることはないと思いますが、お小遣い程度の額にはなるんだと思います。その原資はどこから来ていたのかといえば、皆様の嫌いな「悪い日本の広告」です。

アプリ広告はウェブの広告と無関係でしょうか。そうは思いません。少なくないアプリ広告は起動時にブラウザを開き、サードパーティCookieを利用してユーザーを特定する仕組みを持っています。インストールしているアプリやウェブサイト閲覧などの傾向を蓄積し、ウェブブラウザの広告を最適化していると考えるのはそれほど突飛ではありません。どんな検索ワードに価値があるのか、どんな属性のユーザーがこの広告に食いつくのか、そういった情報はそのままお金になるのです。

よって、仮にスマホへの広告出稿が減るとすれば、そのダメージはGoogleやウェブ界隈だけではなく、個人開発アプリへも及ぶと考えます。

最新のMacBookを購入し、AppleWatchを肌身離さず、WWDCのために渡米し、iPhone6Sの予約を済ませあとは発送を待つばかり、開発者ライセンスを毎年更新し、Swiftコンパイラが吐くバイトコードと対話できるような、典型的なAppleユーザーですら広告ブロックの鉄槌を逃れられないのです。

いま、Swiftの登場によってアプリ開発の敷居は著しく下がり、XCodeも無償で実機で試せるようになり、過去最高に個人開発の機運が高まり、ここ数年で最も独創的なアプリが誕生すると言われていますが、果たして…。